いいえ、わたしはイタリア人じゃありません

 エレヴェーターに乗ったりコンビニに行ったり、これが私たちの映画を観た後にする事。
第一章 法王(無責任・無能力)
 今日わたしたちは語りあかす。三本の映画をみた。地下の映写室で。タイトルは順に『死霊のはらわたⅢ キャプテンスーパーマーケット』『ツインピークス』全シリーズ『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』。わたしたちが知っているコンビニは『うる星』でしか観られなかった。わたしたちが行くコンビニは店長も店員もいない。失踪したのか、はたまた全自動にしたのか。店長をコンビニの屋根まで捜しに行ったがやはり誰もいなかった。商品は幾ら消費しようが何者かによって補充されている。ロボットなりタイムマシンなりを捜してみたが何もなかった。ただ待ってみたりもした。来る日も来る日も。わたしたちは頭にヘルメットをつけて長い棒を持って自己防備をした。わたしたちは朝も夜もコンビニにいることにした。長い月日がながれた。わたしたちは商品の生体研究にとりくみだした。
「腹がへった」
「幽霊、対幽霊のために訓練をしようぞ」
 商品の研究にとりかかってから、わたしたちの意識はかわってしまった。死ぬものもいた。はじめての出産をもコンビニの中で経験した。カップラーメンは増えつづけ、新しいわたしたちに喰いつづけられ減りつづけた。タバコはわたしたちに吸いつづけられ減りつづけ、増えつづけた。わたしたちは、わたしたちのほかは誰もいないコンビニにヴィデオデッキを持ちこんだ。そこで映画を二本みた。
第二章 戦争の放棄
 誰もいないコンビニにヴィデオデッキを持ちこんだ。そこで映画を二本みた。タイトルは順に『2001年宇宙の旅』『惑星ソラリス』。わたしたちは人類の記憶について学んだ。わたしたちは大切なものの記憶について学んだ。また一人、死んでしまった。わたしたちは墓をコンビニの中でつくった。外は雨がふっていた。死体の口をわたしたちが開けると口の中も雨がふっていた。いつしかコンビニの中も雨がふっていた。わたしたちの目の中も雨がふっていた。わたしたちはあまもりの修理をすることにした。この時わたしたちはみんなという表現をはじめてつかった。みんなのもとに待ちにまった商品研究の報告書がとどけられた。しかし製作者は見もしらぬ者だった。
第三章 国民の権利及び義務について
 報告書は光だし消えてしまったという。製作者の名すら覚えているものは、いなくなってしまったという。いつしか噂が流れはじめたという。報告書の製作者はイタリアだという。みんな消えた報告書を模造する作業をすると決めた。コンビニの電気は消され非常灯と外から持ちこんだスタンドだけが光っていた。青白い光の中、みんな話しあって雑誌をつくることとした。この雑誌はすべて色鉛筆でかかれており金釘流文字がびっしりとうまっていた。
「一ページ目をひらこうぞ」
「そうとも、そうとも。ひらこうぞ」
 みんなで真っ赤な表紙をひらくことにした。そこにはアルカイックスマイルの日本人の顔写真があった。
「わたしたちは岐路にたたされている。感覚的知覚も理性的認識もない現代において『MOVIE CULT』とは、はなはだしいかぎりである。どうにかして現実に着地しないと行けない。その方法は”MOVIE”自体にしかない。しかしそこでわたしたちは驚愕するのである。わたしたちは気づくのである。わたしたちのとりとめのない生活が”MOVIE”世界であることに。まさにこの世は生き地獄である。世の中には沢山の”MOVIE”が同時間に違う場所同士が違う物同士が流動している。”MOVIE”に本質はない。この現象は表象じゃない。この”MOVIE”を脱するには”MOVIE”をわたしたちでつくるしかない。答えは現実で勝利するほかないのだ。わたしたちでフィクションをつくるのだ。それが現実(”MOVIE”世界)」を撃つ唯一にして最良の策なのだ。”MOVIE”世界の法王(無責任・無能力)を撃つすべはそれしかない。(もりた)」
「『MOVIE CULT』から”MOVIE”そのものへ……」(『MOVIE CULT』春昼号よりの抜粋)
 そんな本を閉じた。みんな泣いた。
「”MOVIE”自体には、どうやっても近寄れない」
「なぜなら、中身は、からっぽだから」
「”MOVIE”自体は、みんなの思考だ」
「わたしたち一人一人は価値というものだけであって、思考は一つだ」
「わたしたちは騙されている」
第四章 国会
”聖なる報告書”の探索隊が結成されたそうだ。実をいうと近頃コンビニの商品の数が減りつづけている。食べれば食べるだけ減っていく。雑誌やコミックも古いままで新刊もなにもなくなってしまい、CMで流されている新発売の商品も店頭で見かけることはなくなった。探索隊がコンビニの外に出てからは、消費してないものまで消費され、ひとりでにレジスターが作動しレシートを作成し、その分の商品は確実に姿を消していった。おしまいには、見知らぬ客まで姿をあらわした。そしてどうしたことか、みんなの中から店員になりすまし、なにくわぬ顔でレジスターを打つものまでもが登場した。さらにショーもないことはそのニセ店員の上司、ニセ店長までもがみんなの中からでてきて、みしらぬ客からマネーをうけとりはじめたのである。みんなの中から進んで客になるものがいたが、いかんせんマネーを持っておらず途方にくれている。が、中にはレディースコミックを万引きするやつがでてきた。そいつはコンビニの中につくられた牢獄にいれられることになった。わたしはその牢の番人をやることになった。店長・店員とは別に彼らは、映画を撮り始めたそうだ。かれこれ月日がたって第一回目の上映会を開くことになったそうだ。わたしも招待されたが、囚人が脱走しまたもやレディースコミックを万引きしたので上映会には行けず、逃げまどう脱獄囚をコンビニ中をおっかけまわしていた。上映のスクリーンはお茶などが並べられている冷蔵庫に設置されていたので、脱獄囚をおっかけながらチラチラと観覧することはできた。しかしそれが災いして脱獄囚をコンビニの外に逃がしてしまった。わたしは協力者と一緒にコンビニの外に出ようとしたが脱獄囚の方がこっちにつっこんできたのでおどろいた。
「外をみろよ、外をみてきたぞ。外も、外はコンビニでいっぱいだ」
 わたしたちは脱獄囚を一人一発づつ殴り倒した。外をみると脱獄囚のいったとおり、コンビニが沢山、道路でつながれていた。むこうもこっちをみていた。わたしたちもむこうをみた。みんなこっちをみた。
「わたしたちは全然ちがうけど兄弟みたいだね」
 わたしの好きな子がいった。わたしは旅に出た。わたしは映画のスタッフや役者をしていたが、どうもこの世界を強固にしてしまうだけのような気がしていた。一時の救いは感じたが次の瞬間は、まえよりもこの世界は”MOVIE”世界になりすぎていく。わたしは世界の真ん中で思考に出会った。
「わたしたちはみんなを疎外している」
 思考はいった。
「なーる」
 僕はいった。僕の好きな子にいった。
「わたしたちは宇宙レヴェルで故郷を喪失しないといけない」
「それからだ」
「それからね」
「ところでいま何時」
「ドゥーピー・タイム」
「いつか思考をやっつけて、物を救済してやるよ、物を思考に独り占めされてたまるもんかい、なーみんな」
「うん!」
「みんなの中にいるからたのしいね」
「いつかもどってこれるさ」